『冒険の書 AI時代のアンラーニング』これからの学びと働き、遊びの探求

書評『冒険の書 AI時代のアンラーニング』

“学びって本来はすごく楽しいことのはずなのに、どうして学校の勉強はつまらないのだろう?”、”人生は本来すごくワクワクするもののはずなのに、どうしていつも不安を感じながら生きていかなければならないのだろう?”

冒険の書 AI時代のアンラーニング / はじめに

本書には、著者がこれらの疑問から、どんな問いを立て、どんな探求をしたのかというプロセスが記録されている。問いは近代教育、学校、クラス、学年など、現在の学校教育で採用されている制度の起源に始まり、子供という存在、能力や才能にまつわる常識への疑問を経て、次世代へのメッセージにつながる。

こう書くと小難しく見えるかもしれない。しかし、本書は著者が問いへのヒントを求めて手にした本の時代にタイムスリップし、その著者と直接対話する体裁をとっているため、とても読みやすい。タイトル『冒険の書』の通り、問いへのヒントを求めて様々な時代と場所を訪れる。

とはいえ、テーマが壮大すぎる。出てくるキーワードも膨大なので、僕も1度通して読んだだけでは本書の全体が把握できなかった。そこで、以下に各章のキーワードを抜粋して整理しておく。(注)キーワードは @nakanoyutaka が抽出したもの

第1章教育、学校、クラス・学年、発達段階モデル、臨界期仮説、基礎、失敗
第2章いじめ・不登校、学びと遊び、子供と大人、世界初の幼児学校
第3章優生学、能力、才能、アプリシエーション、メリトクラシー、AI、ペシミズム
第4章役に立つ・立たない、他力本願、問題、機能環、バイアス
第5章アンラーニング、資本主義、自立・与える、対話、ビジョン、あるべき学びの場、後世へ残すもの
各章のキーワード

本書では”学ぶことは、楽しいこと”として描かれている。1つのことに没頭し、夢中になってトライアル&エラーを繰り返し、結果的によく学べた経験は、子供のころの記憶をたどれば誰にでもあると思う。つまり、もともと”学び”と”遊び”はシームレスにつながっていた。しかし、学校が専門的な教育施設として発達することで、自発的で楽しかったはずの”学び”は学校で教わる”勉強”になった。さらに、休憩目的の休み時間が遊んでもよい時間としてルール化されることで、残念ながら学びと遊びは完全に区別されてしまった。

これは子供だけではない。大人も同じで、本来はつながっていた”働き”と”遊び”も、社会の工業化で人々が労働者として扱われることで、はっきり区別されるようになってしまう。

そんな勉強や仕事で疲れきった人々は、自発的に遊ぶ気力もなく、疲れをいやすためにエンターテイメントで受け身の遊びを消費するようになり、『遊び』は『学び』や『働き』とますます区別されることになった。

本来、遊びは学びや働きと区別されるものではなく、遊びながら楽しんでトライアル&エラーを繰り返し、そこから学びとる。本書の主張は、ソフトウェア開発のプロジェクトなどで行われる”ふりかえり”のフレームワーク『Fun / Done / Learn』を思い出させる。

学ぶこと、働くことは楽しいことという本書の姿勢には大賛成だ。副題『AI時代のアンラーニング』の通り、今は大人だって一度学んで終わりではなくアンラーニング(学びほぐし)が必要だ。どうせ学ぶなら、受け身で一方的に教育されるのではなく興味のある分野を遊ぶように学びたい。

本書は教育や学校、さらには社会へ疑問を投げかけ、理想を語る。ふつう、理想を語られても実現できるように思えず理想論に思えそうだが、著者が連続起業家の孫泰蔵さんなので、本気で教育と社会を良くする方法を模索しているプロセスであることがわかり、説得力がある。実際、孫さんは2016年に、子供に創造的な学びの環境を提供するグローバル・コミュニティ『VIVITA』を創業したそうだ。

この冒険の物語は、中高校生と、その周囲にいる親や教師はもちろんだが、学ぶことや遊ぶことから遠ざかっている大人にも、ぜひおススメしたい。

近代教育は、戦争の反省として社会を良くするために発展した。一方で、今の学校は社会の求める人材を生産する場と化している。現状、教育と社会が『鶏と卵』である限り、教育を変えるのは難しいように思える。しかし、ChatGPTの盛り上がりから、まもなく社会も否応なく変わるだろう。その時に取り残されないよう、まずは大人としての自分が積極的に遊び、学び、働こうと思う。

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この記事を書いた人

中野 裕のアバター 中野 裕 なかの情報技術 代表

なかの情報技術代表・ITコーディネータ。2002年に上京。多数の金融機関でシステム開発を経験した後、札幌にUターンして独立。経営管理(管理会計)、受注管理、購買管理、工場等の設備管理など、独立後は広範囲の案件に携わる。「ビジネスとITをつなぐ」ために、両者のコミュニケーションギャップを解消するため走り回ることも多い。

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