【日本語の情報希少】エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)の概要
2022年12月21日に経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が発表した『デジタルスキル標準』(DSS)という資料があります。この中ではDXに必要な人材を5つに分類してますが、私が該当しそうな”ビジネスアーキテクト”のスキル項目を眺めていたところ『エンタープライズアーキテクチャ』(EA)という見慣れない単語がありました。
興味があったので調べてみましたが日本語の情報は少ないようなので、記録を兼ねて現時点でわかったことをシェアします。
エンタープライズアーキテクチャのリサーチ
ここでは、エンタープライズアーキテクチャのリサーチ過程を書き残します。概要が知りたい方は、読み飛ばしてください。
Webによるリサーチ
まず、エンタープライズアーキテクチャの定義から調べました。Wikipediaには以下のように書いてあります。これだけだと、私には理解できません。
エンタープライズアーキテクチャ(英: enterprise architecture、EA) は構成要素(事業エンティティ)、それらの構成要素の外的に見える特性、及びそれらの間の関係を含む、事業構造の厳格な記述である[1][2]。EAは、用語、要素の構成、及びその外的環境とのそれらの関係、及び 要求分析、設計とエンタープライズの進化のための原則のガイドを記述する。 この記述は、事業体の目標、事業プロセス、役割、組織的構造、組織的振舞、事業情報(英語版)、ソフトウェア・アプリケーション、及びコンピュータ・システムを含む、包括的である。
Wikipedia / エンタープライズアーキテクチャ
他の検索結果には、メディアやITコンサルティング企業の解説記事が目立ちます。古い記事も多く、さらにそれぞれ説明が少しづつ違うので、いまいち納得感がありません。さらに調べていると、インテック社の『EA (Enterprise Architecture) の概観』という論文を見つけました。書かれたのは2004年と古いものの、冒頭に『EAに対する一般的な定義は存在しない。』とあり、自分の感覚と合います。この論文の前半では、EAの概要として以下の記述があります。
- 起源は1987年/IBM社員だったザックマンが発表した論文(ザックマンモデル)
- 全体最適の観点から業務やシステムを改善するための仕組み(フレームワーク)
- 目的は、現状を明確化し、理想像と、そこに至るプロセスを共有すること
- 機能は、業務とシステムの全体像を把握し、改善活動の道筋をつけ、データ資産を洗い出し、業務とシステムの設計思想の明確化
また、文中に以下の記載があったので「ITアソシエイト協議会」についても検索してみましたが、該当する情報は経済産業省のWebサイトにはありませんでした。(過去に存在した形跡はありました)
経済産業省は2002年に、日本政府におけるITシステム調達の課題を検討し、調達管理の適正化を図ることを目的として「ITアソシエイト協議会」を設立した。
EA (Enterprise Architecture) の概観
書籍のリサーチ
Amazonで”エンタープライズアーキテクチャ”を検索してみると4-5冊しかヒットせず、多くは2000年代に出版されたものでした。一方、検索ワードを英語にすると、多くの英語の書籍がヒットしました。英語の書籍は評価が高いものが多く読んでみたいのですが、日本語に翻訳されているものはなさそうです。
noteの発見
さらに調べ続けていると、2000年代以後の日本政府によるEAの導入経緯がまとまっているnoteを見つけました。このnoteから、以下のことがわかりました。
- IT調達のブラックボックス化、ベンダーロックインが問題視されていた
- ITアソシエイト協議会で検討し、EA策定ガイドラインを公表した
- アーキテクチャは4階層モデル(業務/データ/アプリケーション/テクノロジー)
- 成果ゼロではないものの多くの人に失敗として認識されていること
- 課題が多かった
- 取り組みは形を変えて続いている
日本語で書かれた有用な情報は少なそうです。デジタルスキル標準に記載されているスキル項目が、日本語では学べません。
エンタープライズアーキテクチャとは
ここまで調べててわかったことを整理します。
エンタープライズアーキテクチャの概要
ITアソシエイト協議会報告について(平成15年12月)によると、EAは以下のように説明されています。なお、引用の太字は私がつけたものです。
(1)EA(「業務・システム最適化計画」)とは
より質の高い行政サービスを実現するためには、部局毎の事情でバラバラにシステムが企画・導入されることをあらかじめ防止し、組織全体の『全体最適』の観点から顧客の視点に立って業務・システム双方の改革を進めなければならない。EAとは、それを実践するために「組織全体の業務とシステムを統一的な手法でモデル化し、業務とシステムを同時に改善することを目的とした、組織の設計・管理手法」である。米国でも、96年のIT投資管理改革法に基づいて、EA及びEAに基づくIT投資管理が導入されており、イギリス、カナダ、デンマークなどもこれに続いている。
ITアソシエイト協議会報告について(平成15年12月)
また、政府がEAに取り組んだ背景は、「電子政府の質を上げるために新しい技術導入だけでなく、政府の利便性に基づいた縦割り業務を廃止し、国民や企業の視点から行政サービスの質を向上させ、行政コストを削減することが求められている」「個々の部署でのシステム導入ではなく、組織全体で業務とシステムを一体的に可視化し、管理するために、EAの策定と管理プロセスの導入が必要」と考えたことがあったようです。
なお、前述のnoteではIT調達のブラックボックス化、ベンダーロックインの問題もあったと書かれています。
エンタープライズアーキテクチャの代表的なフレームワーク
代表的なEAのフレームワークとして、『TOGAF』や『ザックマンフレームワーク』があげられることが多いようです。
The Open Group Architectural Framework (TOGAF)
EAを開発、管理するためのアプローチとツールを提供するフレームワークで、事業、アプリケーション、データ、技術の4つの主要なアーキテクチャ領域をカバーしています。
Zachman Framework
EAャの2次元分類スキーマで、情報の視点(例えば、事業主、システム設計者、ビルダーなど)と抽象度(例えば、データ、機能、ネットワークなど)に基づいています。
Federal Enterprise Architecture (FEA)
米国連邦政府が開発したEAのフレームワークで、政府のIT投資をより効果的に行うためのものです。
引き続き、EAを学ぶ
結局、Web上の情報だけではEAの体系だった知識は得られませんでした。そこで、以下の3冊を購入して読んでいます。
- The Practice of Enterprise Architecture: A Modern Approach to Business and IT Alignment (English Edition)
- 現代エンタープライズ・アーキテクチャ概論 – ArchiMate入門
- The TOGAF® Standard Version 9.2 – A Pocket Guide -日本語訳版-
1点目はAmazonで評価が高いものの日本語の訳書がないようです。kindleで英語版を購入して機械翻訳を使って読み進めています。まだ途中ですが、知りたかったEAに関する定義や実践に関することが網羅的に書いてます。2点目は日本語で書かれた比較的新しいEAの書籍、3点目は代表的なフレームワークであるTOGAFを知るために購入しました。
EAの理想には共感するものの、実践の難易度は非常に高く感じます。引き続き、学びすすめたいと思います。
- 1987ジョン・A・ザックマンが論文を発表
- 1995The Open Group Architectural Framework (TOGAF)公開
- 2001Federal Enterprise Architecture (FEA)開発
- 2003『ITアソシエイト協議会報告について』公表
- 2022『デジタルスキル標準』公開