『イシューからはじめよ』すべての知的生産者が読むべきベストセラー
本書には知的生産で大きな価値を生むための考え方が書かれている。それは、一言でいうと “解く価値のある重要なイシュー(問題)を見極めること” だ。その方法は第1章で早々に語られるので、最初の100ページだけでも、この本を読む価値は十分にある。
とは言え、良いイシューが見つかるだけで、知的生産の価値が上がるわけもない。そのため第2章以降では、仮説の立て方から実際の分析を進めるうえでの注意点、最後には伝え方までが解説されている。プレゼンや論文につなげるための具体的な手法がまとめられている後半は、筆者のコンサルタントとしての経歴が存分に生かされており、同じ分野のビジネス書を数冊よむより要点がまとまっているのでおすすめだ。
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一人の科学者の一生の研究時間なんてごく限られている。研究テーマなんてごまんとある。ちょっと面白いなという程度でテーマを選んでいたら、本当に大切なことをやるひまがないうちに一生が終わってしまうんですよ。
利根川進
この序章タイトル裏に記されている利根川進さんの言葉に異論がある人はいないと思う。平等に与えられている時間を何に使うかは、科学者でなくても重要な問題だ。しかし序章のタイトルにある『犬の道』は、その逆を行くもので、目の前にある多数の解く価値があるかわからないイシューに時間を使い、価値のある成果を出す道を指す。
これを避けるためにまずはイシューを見極めることが大事だと言われれば当たり前のように思えるが、自分も若いころは仕事の量をこなすことで質をあげようと、犬の道を邁進していたことがある。同じように思い当たる人も少なくないのではないか。
そうすると解くべきイシューを見極めるために大量に情報をインプットをしたくなるが、今度は知りすぎるとバカになるという。『知識の増大は、必ずしも「知恵」の増大にはつながらない』と書かれているが、これは感覚的にも理解できる。ある業務に精通したベテランほど柔軟性がなくなり、業務改善のアイデアを出すどころか否定する側にまわる。ノウハウはあるが視野が狭まり知恵がない。AIにおける過学習とも類似している。
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この本は、これまで数回読み返しているが、読むたびに現在の自分と重ねて新しく得るものがある。書かれていることを一度で習得することは、凡人の自分には無理なので、今後も手元に置いて定期的に読み直すはずだ。
安宅和人さんは著名な方なので、あらためて説明しない。すさまじい経歴と知識はもちろんだが、柔和な人柄(僕にはそう見える)が魅力で、Twitter( @kaz_ataka )でフォローし、新しいコンテンツを見つけたらわくわくしながら読んでいる。ようするに、1ファンとして彼の発信を楽しみ、学ばせてもらっている。
本書の副題には『知的生産の「シンプルな本質」』とあるが、”シンプルな本質”であるがゆえに、どんな職業の人にも響くポイントはあると思う。現時点で50万部を超える大ベストセラーなので読んだことある人も多いと思うが、ぜひ読み返してみて欲しい。今の自分と重ねて、きっと新しい発見がある。