“聴く”ために知るべき『コーチングよりも大切なカウンセリングの技術』
本書では、カウンセリングの原理原則や基礎をベースに、以下の5ステップで構成される筆者オリジナルの『カウンセリング型コミュニケーション』が紹介される。
- 壁になる
- エピソードを聴く
- (感情に)共感する
- (信念・価値観に)共感する
- 解決を提案する
各ステップの使いどころや、カウンセリングのコーチング・ティーチングとの違いなど、マンガでストーリーが例示されていて、とてもわかりやすい。ただ、本書を読むだけで、すぐに”ココロさん”(カウンセリングを活用して部下と接するマンガの登場人物)のようには振る舞えるとは思えないが、最初の一歩は踏み出せそうだ。
以下では、私個人の聴くことに関する課題、本書で紹介されているカウンセリングの原則、カウンセリング型コミュニケーションの順で紹介する。
話しが聴けない
40年以上生きてきて、話を聞いてもらうことの効用には疑う余地がない。基本的に聞いてもらう相手には、問題の解決を求めてない。意見もいらない。ただただ、適度な相づちで話を聞いて欲しい。そうやって聞いてもらっているうちに、ごちゃごちゃだった頭の中はすっきり整理され、問題解決の道筋が見え、抱えていた悩みが自己解決したことが何度もある。話す側として、聞いてもらうことの効用は絶大に感じる。
一方で、他人の話をうまく聞けているのか。相手の悩みを聞きながら、ついつい解決策を考え、求められていないアドバイスが口をつき、相づちさえ疎かになってしまう。仕事ではチームの若手メンバーに余計なアドバイスを送り、家庭では家族の話に理詰めで反応してしまう。聞くことは、むずかしい。
前置きが長くなったが、聴く(傾聴の意)どころか、聞くことさえできていない自分に気づき、それなら学ぼうと”コーチング”のキーワードで入門書を探している中で『コーチングよりも大切なカウンセリングの技術』を見つけた。
カウンセリングの原則
本書で紹介されているのは、カウンセリングを職場で実践できるようアレンジした筆者オリジナルの『カウンセリング型コミュニケーション』だ。「会社員が職場で使いこなす」をコンセプトに簡便に作られているので専門知識は必要ないが、最低限のメカニズムは知っておいて損はない。
カウンセリングには多数の流派があるらしいが、本書では多くの流派で基礎中の基礎とされている代表的な原則が紹介されている。ここでは、その中から相手の話を”聴く”ために心がけたい大原則2つを簡単に紹介したい。
バイスティックの七原則
バイスティックの七原則は、フェリックス・バイスティック博士が1957年に提唱した対人援助原則で、理解することで「カウンセリングで何が起きているのか」「カウンセラーが何を大切にしているか」がわかるそう。話を聴くうえでも、大事なことばかりが並んでいる。
- 個別化原則
- カウンセラーは出会う一人ひとりを類型化してはいけない
- その体験もまた一人ひとり独自のものとして尊重する
- e.g. 部下の失敗を自分の経験と同じと決めつけない
- 意図的な感情表出の原則
- カウンセラーは安心安全な環境をつくる
- 解決策立案や原因分析より感情そのものに焦点をあてて聴く
- 受容、共感することで相手に「ネガティブな感情を感じてもいい」と気づいてもらう
- 統制された情緒的関与の原則
- カウンセラーは自分の感情の表出についてはコントロールしなければならない
- 受容原則
- カウンセラーは相手のネガティブな側面を含めたすべてを受容的に聴く
- 私とあなたは違う存在と線を引いた上で相手をわかりたいと思う心が大切
- 非審判的態度の原則
- カウンセラーは相手をジャッジしない
- 相手をありのまま理解しようと努める
- 自己決定原則
- カウンセラーはできるだけ指示を避け、相手に自己決定を促す
- 守秘原則
自分が誰かの話を聞くシーンをふりかえると、相手の話を自分の体験と重ねて(個別化できていない)、良い悪いを判断(審判的な態度をとっている)してばかりだったことに気づく。各原則の大切さは理解できても、実践はむずかしそうだ。
クライエント中心療法
クライエント中心療法は、カール・ロジャーズ(心理療法家)が提唱した。「人は本来成長していく力を持っており、それを支援するための環境を作ることが重要である」という考え。現代カウンセリングの基礎と言える。
- 無条件の肯定的配慮
- 相手が何を訴えても、無条件にそれを肯定的に受け止めること
- 共感的理解
- クライエントの私的世界を自分自身の私的世界であるかのように感じること
- 「なるほど、あなたはそう感じたのですね」と体感する
- 自己一致
- 自己概念(私は○○だ)と、実際の体験が一致している状態
- 理想(自己概念)よりも現実(実際の体験)を重視して受け止める力
七原則と同じく理解はできても実践はむずかしい。特に共感的理解は、相手の話次第では聴く側の精神的なバランスを崩しかねないように思う。
カウンセリング型コミュニケーション
先に紹介した原則や基礎的な考え方は、いずれも大事なことだと理解できるものの、実践はむずかしい。そこで、会社員が職場で使いこなせるように考えられたのが、『カウンセリング型コミュニケーション』になる。
ステップ
- 壁になる
- 聴くことから始まる
- 指示、助言、体験談、感想など余計なことは言わない
- 必要なのは、相づち、オウム返し、述語的会話、理解の確認
- エピソードを聴く
- (職場でありがちな)抽象的で漠然とした話をエピソードに変える
- 相手との関係性が、対立から同じ方向を向く
- 映像化を引き起こす
- 必要なのは、映像化、THE MOST、入れ子構造、自己内対話
- (感情に)共感する
- 理性を超えて人を動かす
- 必要なのは、内的世界に入り味わう、Use of Self、感情の反射、一次感情と二次感情、個別化した上での共感、我-汝関係
- (信念・価値観に)共感する
- 認知療法に近い効果が期待
- 必要なのは、ABCD理論、イラショナル・ビリーフ、認知療法
- 解決を提案する
- 本来は行う必要がない
- 具体的な提案を求められた時に軽めに提案
- 必要なのは、YOUメッセージとIメッセージ
いずれのステップも、考え方だけでなく技術が紹介されているので始めやすい。すべてをマスターするには日々の地道な訓練が必要そうだが、少しづつでも身につければ、相手との関係は改善していきそうだ。
まとめ
本書を読んで、私個人のコミュニケーションが改善した実感はまだない。きっと長い時間がかかると思うので、いま知ることができて本当に良かった。コミュニケーションに悩むすべての人におすすめしたい。(特に私と同じ中年男性は読むべき!)
最後に、Amazonで気になるレビューを見つけたので付け加えておく。それは「コーチングを狭義で定義している」というものだ。レビュアーは、エグゼクティブコーチとして活動しており、コーチングでは本書と同様のアプローチをとっているそうだ。コーチングはカウンセリングと重なる部分が多いのかもしれない。本書は、カウンセリングをコーチング・ティーチングと比較して語るが、その点は書かれている内容を鵜吞みにせず、別でコーチング・ティーチングを勉強した方がよさそうだ。