Googleのノーコードツール『AppSheet』は業務アプリの要件を満たすか
Google AppSheet って業務アプリに必要な機能はそろっているのかな?
この記事ではGoogleのノーコードツールであるAppSheetについて、業務アプリをつくるために必要な機能がそろっているか確認します。
この記事でわかること
- Google AppSheetの概要
- 業務アプリに必要な機能
- AppSheetの機能
- AppSheetのプランと料金
この記事で扱わないこと
- アプリ開発者向けの機能(アプリの設定、デプロイなど)
Google AppSheetとは
AppSheet(読み:アップシート)はGoogleが提供しているノーコードツールです。プログラミングの知識がなくても自社の業務に合ったアプリを簡単に作成できます。作成したアプリはWebブラウザから操作しますが、スマホやタブレットには専用アプリが用意されています。
なおAppSheetでは簡易的なデータベースとしてGoogleスプレッドシートが利用できます。RDBMSも使えますが、ここではGoogleスプレッドシートの利用を前提に進めます。
業務アプリの要件(確認内容)
データベース型の業務アプリに実装されることが多い機能分類とユースケース(=どのように使われるか)を、表にまとめました。
機能分類 | ユースケース | 備考 |
---|---|---|
データ操作 | データの登録・更新・削除 | |
データの参照 | ||
検索・フィルタ | ||
認証 | ログイン | |
データのアクセス制御 | ||
ユーザー管理 | ||
通知と報告 | 通知 | |
グラフ作成 | ||
帳票(レポート)作成 | 報告書や書類の作成 | |
承認フロー(多段階) | ||
データ連携 | エクスポート・インポート | |
API※2連携 | ||
監査ログ | ログの取得 | |
ログの分析 | ||
保守・管理 | バックアップ・リストア※2 | |
データアーカイブ※3 | ||
パフォーマンスモニタリング | ||
その他 | バッチ※4処理 |
※1: APIは”Application Programming Interface”の略で、異なるアプリ同士をつなぐための「約束事」や「ルール」のことです。
※2:リストアはバックアップしたデータを戻すことです。
※3:アーカイブは情報やデータを整理して長期間保存することを指します。保存された情報は、後で必要になった時に取り出して利用することができます。
※4:バッチ処理は夜間などに行われる一括処理のことです。
AppSheet機能の確認
機能分類ごとに確認します。
1. データ操作
AppSheetでは、データに関する基本的な操作が直感的に行えるようになっており、ユーザーはデータの作成、更新、削除、参照を簡単に実行できます。
データの登録・更新・削除
データの登録は非常に簡単です。データ一覧画面の「Add」ボタンを押すことで、登録フォームが表示されます。このフォームに必要な項目を入力し、「Save」ボタンを押すことでデータが登録されます。また、既存のデータを更新する場合は、対象データの詳細画面で「Edit」ボタンを押して編集を行い、「Save」ボタンを押して変更内容を保存します。データを削除する場合は、ゴミ箱アイコンをクリックすることで削除が完了します。
この一連の操作は、一般的なユーザーインターフェースを採用しているため、初めて使用するユーザーでも迷うことなく操作できます。
データの表示(一覧、詳細)
メニューからデータの一覧画面を開くと、登録されたデータの一覧が表示されます。各データをクリックすることで、その詳細画面に遷移します。詳細画面では、データの内容を確認することができ、必要に応じて編集や削除が行えます。
こちらも一般的なユーザーインターフェースを採用しているため、直感的に操作することができます。
検索・フィルタ
データ一覧画面では、2種類の方法でデータを検索・フィルタできます。
- Search: アプリ内の全項目を対象として素早く検索できます。任意のキーワードを入力すると、該当するデータが即座に表示されます。
- Filter: 項目ごとに条件を指定して検索することができます。複数条件を指定して絞り込むことも可能です。
専門的な話になりますが、検索とフィルタを以下の意図で使い分けています。
- 検索: データ全体から任意条件のデータを取得しなおす操作です。特定のキーワードや条件に基づいてデータベース全体を検索し、該当するデータを表示します。
- フィルタ: 取得済みデータを任意条件で表示する操作です。既に表示されているデータ一覧の中から、特定の条件に合致するデータを絞り込んで表示します。
このように、AppSheetではデータの操作が非常に簡単で直感的に行えるようになっており、ユーザーはデータ管理を効率的に行うことができます。これにより、業務の効率化やデータの精度向上が期待できます。
2. 認証
AppSheetでは、強力かつ柔軟な認証機能を提供しており、さまざまな認証プロバイダーを利用できます。
ログイン(認証)
ユーザーは自分のメールアドレスとパスワードを使用してAppSheetにログインします。サポートされている認証プロバイダーは以下の通りです:
- Microsoft
- Apple
- Dropbox
- Smartsheet
- Box
- Salesforce
また、企業が独自に構築したメールサーバーを使用する場合、SAML認証やOAuth 2.0認証を利用することも可能です(ただし、こちらの機能は未確認です)。
この多様な認証オプションにより、企業や個人ユーザーは自分たちに最適な認証方法を選択できます。
データのアクセス制御
AppSheetでは、ユーザーごとにアクセス可能なデータを詳細に制御できます。アクセス制御は以下の単位で設定可能です:
- ビュー
- レコード
- フィールド
アクセス制御の設定には、関数を使用します。これにより、基本的なメールアドレスや名前、ロールに加え、独自のユーザーマスタを用意することで、細かいアクセス調整が可能になります。例えば、特定の部署や役職に応じたアクセス権を設定することで、必要なデータのみを適切に提供することができます。
ユーザー管理
AppSheetでは、アプリをシェアしているユーザーの一覧を管理できます。AppSheetが保持する情報は最低限のものに限られていますが、必要に応じてユーザーマスタを自作することで、氏名や部署などの詳細情報を管理することが可能です。
ユーザーマスタを活用することで、以下のような管理が行えます:
- ユーザーの役職や部署に応じたカスタム属性の追加
- 特定の条件に基づいたアクセス権の制御
- ユーザーの活動履歴の追跡
これにより、企業のニーズに合わせた柔軟なユーザー管理が実現できます。
3. 通知・報告
AppSheetは、通知や報告機能も充実しており、さまざまな方法で情報を伝達できます。
通知
AppSheetでは、ユーザーに対して以下の方法で通知を送ることができます:
- メール送信:特定の条件に基づいて自動的にメールを送信することができます。
- プッシュ通知(モバイルデバイス):モバイルデバイスに対してリアルタイムでプッシュ通知を送信できます。
- SMSメッセージ:特定の条件に基づいてSMSメッセージを送信することができます。
- Webhook:外部サービスと連携して通知を送るためにWebhookを利用できます。これにより、他のアプリケーションやシステムと統合して柔軟な通知を実現できます。
グラフ作成
AppSheetでは、ビューとして簡単にグラフを作成することができます。具体的には、次のようなグラフが作成可能です:
- 棒グラフ
- 折れ線グラフ
- 円グラフ
- その他のカスタムグラフ
これらのグラフを組み合わせて、ダッシュボードとして表示することもできます。ダッシュボードは、複数のグラフを一つの画面にまとめて表示することで、データの視覚的な把握が容易になります。
帳票(レポート)作成
AppSheetでは、Google Docsをテンプレートとして使用し、任意のデータを埋め込んだ帳票(レポート)を作成することができます。これにより、次のようなカスタマイズが可能です:
- 企業ロゴやフォーマットを含むカスタムレポート
- 特定のデータを動的に埋め込んだレポート
- 定期的なレポートの自動生成と配信
これにより、企業のニーズに応じた柔軟な帳票作成が実現できます。
承認フロー
標準機能としては提供されていませんが、AppSheetを用いて承認フローを実装することは可能です。以下のような方法で承認フローを構築できます:
- カスタムアクションとワークフロー:特定の条件が満たされたときに実行されるアクションやワークフローを設定することで、承認フローを構築できます。
- ユーザーごとの役割設定:ユーザーの役割に応じて異なる権限やアクションを設定し、承認プロセスを管理できます。
- 通知と連携:承認が必要なタイミングで通知を送信し、適切な担当者にアクションを促すことができます。
これにより、業務プロセスに応じた柔軟な承認フローを実現することができます。
4. データ連携
AppSheetは、データのエクスポート・インポート機能やAPI連携機能を提供しており、他のシステムとのデータ連携が容易に行えます。
エクスポート・インポート機能
AppSheetでは、CSV形式でデータをエクスポートおよびインポートする機能を実装できます。これにより、次のような操作が可能です:
- データのエクスポート:アプリ内のデータをCSV形式でエクスポートすることで、外部のデータ解析ツールやスプレッドシートでの利用が容易になります。これにより、データのバックアップや外部システムとのデータ交換がスムーズに行えます。
- データのインポート:既存のデータをCSV形式でインポートすることで、AppSheetアプリにデータを取り込むことができます。これにより、新規アプリ構築時やデータ更新時に効率的なデータ移行が可能となります。
API連携
AppSheetは、Google Apps Script(GAS)を用いたAPI連携機能を提供しています。これにより、外部APIとの連携を実現できます。ただし、GASのプログラムを書く必要があります。具体的な連携方法は以下の通りです:
- GASの呼び出し:AppSheetからGASを呼び出すことで、外部システムとデータをやり取りすることができます。例えば、データの更新や取得をGAS経由で行い、他のシステムと連携させることが可能です。
- トリガーによる連携:特定の条件やタイミングでGASを実行するように設定することで、自動的に外部APIを呼び出すことができます。これにより、定期的なデータ更新やイベント駆動型の処理を実現できます。
- Webhookの利用:Webhookを利用して、AppSheetから外部システムにデータを送信したり、外部システムからAppSheetにデータを取り込むことができます。
これらの機能を活用することで、AppSheetを中心に据えたシステム連携を実現し、効率的なデータ管理と業務プロセスの自動化が可能となります。
5. 監査ログ
AppSheetでは、システムの利用状況や変更履歴を監査するためのログ取得機能が提供されています。
ログ取得
AppSheetは、以下のような詳細なログを自動的に取得します:
- イベントの種類:ログイン、データ変更、設定変更などのイベントを記録します。
- イベントのタイムスタンプ:各イベントが発生した日時を記録します。
- 操作を行ったユーザーのIDやIPアドレス:誰がどこから操作を行ったのかを記録します。
- 変更が行われたデータや設定の詳細:具体的にどのデータや設定がどのように変更されたかを記録します。
- エラーや警告メッセージ:エラーや警告が発生した場合、その詳細を記録します。
ログ分析
取得したログはフィルタリングすることが可能です。ただし、この機能はエンタープライズプランに限定されています。フィルタリング機能を利用することで、特定の条件に基づいてログを検索し、詳細な分析を行うことができます。
6. 保守・管理
AppSheetでは、システムの保守・管理に役立つ機能も提供されています。
バックアップ・リストア
AppSheetには標準機能としてバックアップ・リストア機能はありませんが、実装することが可能です。例えば、定期的にデータをエクスポートしてバックアップを取り、必要に応じてインポートしてリストアする方法が考えられます。
データアーカイブ
標準機能としてはデータのアーカイブ機能はありませんが、これも実装が可能です。例えば、古いデータを定期的にエクスポートし、外部のストレージに保存することでアーカイブを実現できます。
パフォーマンスモニタリング
AppSheetにはパフォーマンスモニタリング機能が標準で含まれています。具体的には、以下のようなパフォーマンスデータを監視できます:
- オペレーション・タイプごとの平均持続時間:各操作タイプの平均処理時間を監視します。
- アプリのバージョン別平均仮想カラム計算時間:アプリのバージョンごとに、仮想カラムの計算にかかる平均時間を監視します。
ただし、ログのフィルタリングと分析機能はエンタープライズプランでのみ利用可能です。
7. その他
AppSheetには、上記以外にも便利な機能があります。
バッチ処理
AppSheetのAutomation機能を使用して、バッチ処理をスケジュールすることができます。これにより、定期的なデータ処理やメンテナンスタスクを自動化することが可能です。例えば、毎日一定の時間に特定のデータを更新するなどの処理を設定できます。
プランと料金
AppSheetは、さまざまなニーズに応じた複数のプランを提供しています。各プランの特徴と料金について簡単に説明します。
プラン名 | 月額料金 (1User・月) | 備考 |
---|---|---|
Free | $0 | 10人までは無料で使える ただしデプロイ不可 |
Starter | $5 | |
Core | $10 | ほとんどのGoogle Workspaceプランに含まれる |
Enterprise Plus | $20 |
各プランは、企業の規模やニーズに応じて最適なものを選択できます。小規模なプロジェクトや試験的な利用には無料プランやStarterプランが適しており、業務での本格的な活用にはCoreプランやEnterpriseプランが推奨されます。特に、エンタープライズプランは大規模なデータ連携や高度なセキュリティ要件を持つ企業にとって理想的な選択肢です。
AppSheetは、ユーザーのニーズに合わせた柔軟なプランを提供しており、必要な機能やサポートレベルに応じて適切なプランを選ぶことができます。詳細な料金や機能については、AppSheetの公式ウェブサイトを参照するか、直接問い合わせることで確認できます。
まとめ
AppSheetは、ノーコードで簡単にアプリケーションを作成・管理できる強力なツールです。今回紹介したように、データ操作、認証、通知・報告、データ連携、監査ログ、保守・管理、その他の機能を活用することで、さまざまな業務プロセスを効率化し、業務のデジタル化を推進することができます。特に、中小企業にとっては、コストを抑えながらも高度なアプリケーションを構築できる点が大きなメリットです。
主なポイント
機能 | 説明 |
---|---|
データ操作 | 簡単なインターフェースでデータの登録・更新・削除が行え、検索・フィルタ機能も充実しています。 |
認証 | 多様な認証プロバイダーを利用でき、ユーザーごとのアクセス制御も細かく設定可能です。 |
通知・報告 | メール、プッシュ通知、SMS、Webhookによる通知機能や、グラフや帳票の作成機能が充実しています。 |
データ連携 | CSVのインポート・エクスポート機能や、GASを利用したAPI連携が可能です。 |
監査ログ | 詳細なログの自動取得と、エンタープライズプランでのログ分析が可能です。 |
保守・管理 | バックアップ・リストアやデータアーカイブ、パフォーマンスモニタリング機能を活用することで、システムの保守・管理が容易になります。 |
その他の機能 | バッチ処理やカスタムワークフローを通じて、業務の自動化が実現できます。 |
結論
AppSheetは、ITの専門知識がないユーザーでも簡単に利用できるため、企業の規模を問わず、多くの業務シーンで活用することができます。特に、中小企業にとっては、コストを抑えながらも高度なアプリケーションを構築し、業務効率を大幅に向上させることができるツールとして非常に有用です。
さらに、エンタープライズプランを利用することで、大規模な企業や高いセキュリティ要件を持つ業務にも対応できるため、幅広いニーズに応えることができます。
最後に、自分のビジネスやプロジェクトに最適なプランを選び、AppSheetの多彩な機能を活用して、業務のデジタル化と効率化を推進してみてはいかがでしょうか。